再生の町 最終回
ある意味定番の展開でしたが、上手くまとめた最終回という印象です。
ただ、注目していた、高岡(筒井道隆)たちが立てたビジョンは、市民と行政のパートナーシップによる町の再生というもので、この考え方自体は、それこそ20年以上前から言われ続けている者なので、特に目新しいことないということもあり、現実的にそう上手く行くかは疑問がありますが、ドラマ中のなみはや市のような、人口5万人くらいの市であれば、行政と市民との距離がそう遠くない場合、実践できないことではないかもしれません。
もっとも、大きな町でも、地域単位でシステムを作り上げれば、住民参加の行政を作り上げることは不可能ではないでしょうし(現に、高齢者福祉などは、国もこういう考え方のようです。それはそれで難しいのですが。)これからは、こういうパートナーシップが必要になる時代なのだろうと思います。
また、個人的には、病院の赤字、子育て支援といった行政が担う分野の肩代わりを市民が行うという手法で解決できるのかは疑問ですが、この町の場合、市長のアピールもあり、市民の意識も高くなっていると考えれば、無理と決めつけるのもどうかとは思いました。ラスト近くで、それぞれの仕事に戻った高岡や橋本(久保山知洋)たちが、市民の電話などに「すぐに現場に行って見ましょう」みたいなスタンスを入れたり、お祭りで田村(南果歩)たちが配るチラシへの反応がとても良いのも、行政も、市民の意識も前とは違うというのを表現したかったのかもしれません。
ドラマの展開ですが、市民が参加しての拡大公開折衝という「決戦」を迎えます。今回は、これまで今ひとつ印象が薄かった市長(吉田栄作)が権藤(近藤正臣)から父の不正を改めて知らされ、逆にそのことを折衝の場で市民に知らせた上で、ニュータウンの凍結と、高岡達のビジョンによる行政の運営を集まった市民に働きかけます。この場面の市長がとても毅然としていて、決意に満ちていたのが素晴らしかったです。新しい市民のリーダーとしての説得力が十分にあったと思います。吉田栄作、好演でした。
ちなみに、折衝の前に、高岡が市長を誘い、森村(桂吉弥)の営む喫茶店で食事をするのですが、この場で、市長が、自分の父もこの町と、この町に住む人々を大事に思っていたことを改めて知る場面を入れていたのも、市長の決意に影響を与えるエピソードとして効果的だったと思います。
一方で、権藤の悪役ぶりも徹底していました。彼のおかげで、市長やプロジェクトチームがより引き立ったと思います。まあ、類型的すぎる感もありますが、ドラマとしてはわかりやすさも大事だと思いますので。
権藤が、折衝前に市長に念押しする場面とか、折衝の場で恫喝するシーンなど、迫真の演技だったと思います。結局、市長のアピールにより、まさかの敗北を喫する訳ですが、折衝終了後に、高岡に対して、彼が大事にしていた網の補修具を渡し、彼もまたこの町を思っていたというエピソードを入れたのも良かったです。
なお、見終わって思ったのが、結局、高岡が以前デパートで働いていたという設定についてです。やはり、これは一般の会社でもそうだと思うのですが、入ってすぐの人間にこのような大事な仕事のリーダーを任せるというのは違和感があります。別に、普通に公務員になって普通にキャリアを積んでいたんだけど、といった設定でも良かったんではないかなあ、と思いました。まあ、万博公園の父子のエピソードなど、ドラマ上は無視できないというのもわかりますが、難しいところですね。
総じて、難しいテーマを限られた回数の中でドラマ化するという、いろいろ制約のある中で、エンターテイメント性と現実の厳しさのバランスを上手に取って、表現していたという印象です。ラスト近く、コンサルさん(矢島健一)と認知症の父(長門浩之)の和解の場面など、エピソードの入れ方がよく考えられていたという印象です。
実際の仕事って、必ずしも「天下国家を動かす」といったダイナミックなものだけではなくて、このドラマで描かれたような地道なものがほとんどです。そんななか、間宮(岸部一徳)や高岡のような「市民の幸せを第一に」という姿勢を総論として常に忘れない(各論ではいろいろ難しいような気もしますが。)ことは大事だと思います。そういう意味では、就職を控えた大学生さんとかに見てほしいドラマです。
多分、NHKとしては「白洲次郎」の方に力が入っていたと思います(あっちはいろいろな意味で対照的ですね)し、こちらはとても地味なドラマでしたが、個人的には「ハゲタカ」「フルスイング」に続く土曜ドラマの秀作だったと思います。夏クールではこのドラマがベストかな。
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