2009年ベストドラマ(後編)
第2位 外事警察
NHKの土曜ドラマが続きます。初回から最終回の最後まで緊張感あふれるドラマでした。とにかく、テロリストを追いかける住本斑の描写が凄い。昼夜問わず対象者をあらゆる手段で見張り続けます。こうなると、プライバシーなんて存在しないよな、とちょっと怖くなるほどでした。
人物描写も力が入っていました。自ら演出した「FISH」によるテロの脅威をもとに日本政府への売り込みを図るアメリカの民間警備会社、それを逆に利用する住本(渡部篤郎)、だんだん公安に染まっていく陽菜(尾野真千子)、誰のための協力者なのか正体がさっぱりわからない愛子(石田ゆり子)など、ほとんどの登場人物が他人を騙しているように見えて、非常に精神衛生上良くない感じがします。
それから、演出もなかなか凝っていました。暗い画面、迫力あるカーチェイス、爆発の場面など、最近のテレビドラマは結構CGでごまかすことが多いのです(「天地人」とか典型ですね。)が、かなり頑張っていたと思います。
あと、なんといっても、住本を演じる渡部篤郎が素晴らしいです。「FISH」を追いつめるときの表情など、本当に鬼気迫る感じで、まさに「公安の魔物」というのがぴったりです。久々の本領発揮という感じがしました。でも、渡部篤郎と筒井道隆は真逆な役者という感じがしますねえ。お互い、逆のドラマに出ていたら、ドラマが崩壊しそうな気もします(笑)。適材適所と言うことなのでしょうが。
というわけで、あまりに緊迫感がありすぎたせいか、視聴率は今ひとつでした(というより悪かった)が、あえて和みの場面を全く排除したことで、全6回すべてで緊迫感と濃密さを維持し続けた潔さは素晴らしかったと思います。流石は「ハゲタカ」チームの仕事です。次は「龍馬伝」でいい仕事をしてほしいです。
第1位 「JIN -仁-」
特に最終回については、ネット上でも賛否両論のようですし、私はあれで良かったかなとは思っていますが、拍子抜けしたのも事実ですし、不満があるというのもよくわかります。
ただ、このドラマはそれを差し引いたとしても、やはり今年のドラマでは抜群の出来だったと思います。特に、初回が秀逸です。タイムスリップした仁(大沢たかお)が当時の道具で必死に人を助けようとする姿に感動したし、「手術」なんて見たこともない橘家の人たちの戸惑いとか、逆に、タイムスリップしたと言うことを受け入れられない仁の戸惑いもしっかり伝わってきました。そんな中に幕末の人々の親子の愛情や、思いやり、助け合う姿などがしっかり描かれていることで、失われつつあるこれらの美徳の大切さを思うことができましたし、吉原の華やかな姿には、今では見られない江戸時代ならではの情緒を感じることができました。あと、幕末の技術である程度現代医学に対応できるだけの道具を作ることができてしまうのが、新鮮な驚きでした。
また、大沢、中谷といった、映画中心で活躍している俳優中心に、内野、綾瀬を脇に配したキャスティングも秀逸でした。
大沢たかおは、現代の恋人、未来のことに思いを馳せながら江戸期で懸命に生きる仁にばっちりはまっていました。仁の苦悩、喜び、悲しみ、戸惑いがしっかり伝わってくる演技だったと思います。
中谷美紀は気高く、才気ある花魁、野風にぴったりだったと思います。このドラマの場合、仁との釣り合いを考えると、あまり若い女優だとマッチしないような気がするので、ちょっと年齢が高めではありますが、中谷で良かったと思います。演技自体も、抑えた声、感情のこもった声など上手に使い分けていて、流石は中谷です。
綾瀬はるかについては、ドラマ開始前にはちょっと不安だったのですが、優しく、健気で前向きな咲を演じていて全く違和感がなかったのが驚きです。綾瀬には、こういう一生懸命な役は向いているのかもしれません。貫禄と余裕を感じさせる野風と、若さとひたむきさを感じさせる咲はとても対照的でしたが、どちらもとても魅力的でした。それにしても、綾瀬はるかは、キムタクドラマといい、「JIN」といい、今年は本当にいい仕事をしたと思います。嬉しいです。
最後に、内野聖陽の龍馬ですけど、あちこちでとても好評のようです。明るく、豪快で、ちょっとおっちょこちょいで、それでいて思いやりのある、私たちが考える龍馬像を見事に表現していたと私も思います。龍馬が出てくるとドラマがぱっと明るくなるのが心地よかったです。仁先生もこんな人が側にいれば、心強いよなあ。
あと、演出も頑張っていたと思います。オープニングの映像と音楽は、スポンサー名の入れ方まで含めて素晴らしかったです。というか、スポンサーに合わせて背景の場面を変えるなんてドラマは見たことがありません(笑)。
江戸の町や吉原の描写も頑張っていたと思います。「坂の上の雲」の異常なハイクオリティ(NHKは金かけすぎかも)を見た後ではどうしても見劣りするのですが、吉原のセットとか、とても綺麗だったし、見終わるとそれほど気にならないのが素晴らしいです。セットとかにお金をかけられない分を、小道具とか衣装にこだわることで良くカバーしていたと思います。
総じて、あの「坂の上の雲」とバッティングし、年末の特番の連発のなかで視聴率20パーセント以上を記録したというのは凄い事だと思います。もっとも、10話以降は明らかに視聴率狙いのミスリードかなと思う事もあるし、結構不満な点も多くなりますが、そこだけで評価はしてほしくないです。
個人的には、比較的視聴率が低かった初回、第7話、第9話が特に素晴らしかったと思っています。第7話は緒方洪庵(武田鉄矢)に泣かされました。彼の思いを受けて、仁が病院開業を決意するくだりも良かったと思います。第9話は野風の切ない思いと、江戸の大火に立ち向かうチームワーク、一方でトリアージなんていう新しい考え方を躊躇なく取り入れてしまう盛りだくさんの内容が秀逸でした。特にこの3つの話は入魂の力作だと思っています。
というわけで、全般的に見ると、やはり、脚本、演出がとても高いレベルでまとまり、俳優さんの演技にも魂のこもった、もの凄いドラマだったと思います。個人的には「ハゲタカ」「(第一クールの)風林火山」以来の傑作ドラマです。
最後に、今年の総括ですが、特に、秋クールに素晴らしいドラマを見られて、結果的には良かったです。次点としては、「任侠ヘルパー」かな、という印象です。来年はまず「ハゲタカ」「フルスイング」のスタッフが結集し、大森南朋、貫地谷しほりの出る「龍馬伝」に期待します。
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